俺節【書き起こし⑦】 [俺節]
俺節 書き起こし 7
いつものスナックで
大野に付いて流しをしていた時、
大野が用足しの間、
コージが歌うことになった。
とたんに緊張するコージ
コージ、落ち着け、
これはただの場繋ぎだ
大丈夫だ、今あの人が
どんな歌を聞きたいのか、
予想しているところだ
客:小林旭、頼むよ
はいっ
分かったぁ。あの人はきっと
小林旭を聞きたがっている
お前の予想を信じよう
『北へ』でいいか?
もちろんもちろん。
じゃ、キー確認しとけよ
♪はぁーー(めちゃくちゃ高い)
高いよ、
聖歌隊にでもなるつもりかい!?
もっと低いの、低いの
♪あああぁーー
しゃくるな
あんなぁ、小さな声でも聞いてもらえるから
まずは人前で歌うことに慣れろ
そのとき、
静かに北野と大橋が
店内に入ってきたことには
二人とも気付いていなかった
客:よっ
へば
♪名もない港に
オキナワの伴奏で
コージが気持ちよさそうに歌う。
客はやんやと拍手している
この歌、とても上手い。
声が伸びやかで
晴れ晴れとした歌いっぷり。
気持ちよさそうに
朗々と歌い上げるコージは
ほんとに上手いなぁ…
だけど鳥肌モンではない。
歌に感情が入っていないのか、
「絵」は浮かんでくるけど
「情景」は思い描けない。
機械的な上手さなんだよなぁ
舞台が続いて声が出にくい時は
ブレスに工夫したりして
ちゃんときれいな歌にしていたのは
経験値が活かされてると思ったよ
大橋:この店の流しってあれ?
ごめん、出るわ。
店、間違えちゃったみたい
あれ!?お前、大橋じゃねぇか
大橋:呼び捨てにすんなよ
てことはそのサングラスは
北野波平だな!?
大橋:呼び捨てにすんなって
客:ええっ!?
北野:北野、波平です
解ってるよ
北野:青函トンネルの北の入り口、
北海道上磯郡知内町の出身でございます。
歌に真心を込め、それだけを
愚直に取り組んでまいりました。
どうぞ皆様、ごひいきに
北野先生の口上はどの場面でも変わらず。
芸能へのブレの無さが表れていた
えっと恥ずかしながら 私はこの口上で
青函トンネルの入り口の地名を知りました
大橋:先生、こいつらはファンの方じゃないので
北野:そうだったな
大橋:オキナワですよ、ほら。
こないだクビにした
北野:おおおおオキナワか。
お前、元気にやってるのか?
なんだよ!?俺たちの顔を忘れたのかよ
大橋:先生がこの通りに馴染みの、
いい流しがいるっていうから来たんだぜ。
そしたらのど自慢の若造しかいねぇから
帰るとこだよ
北野波平だと分かった時から
店の片隅で頭を抱えていたコージ。
言いたいことがありそうだけど
口を開くことはできない。。。
もじもじするばかり
なんだと、このやろー
北野:大橋、お前はほんとに口が悪いねぇ。
悪かったな、こいつは口は悪いし臭いし。
困ったもんだ、失礼しました
階段を上がって帰りかけた北野に
コージの、思い切った声が飛んだ
北野先生はどう思ったんだべか!?
あまりの勢いに静まり返った店内に
コージの声が続く
その…おらの歌、
のどに詰まったと思ったんだべか!?
迫力にオキナワも驚いていた
どう思ったんだべ!?
真剣なコージに
北野も真剣な声で話し始めた