俺節 第二部 書き起こし⑧



北野家の座敷牢では

オキナワが長柄の箒を

ギターに見立てて

歌を口ずさんでいた。

俺節をラララで歌っている!



そこに北野がやって来た



北:いい曲だ



1人前の作曲家になったら

座敷牢から出してやると言う



北:ギターは好きか?

は?

北:箒を弾いてしまうくらい、

  ギターは好きか?と訊いてるんだ



答えられないオキナワに

畳み掛けるように北野が言う



北:もう一月か。

  何もすることのない座敷牢の中で。 

  でも何をしてもいい座敷牢の中で

  お前がしたことは

  歌を歌うことだったというわけだな。 

  自分がそういう人間だった

  ということを自覚しろ!

ヒマ過ぎたんだよ

北:お前は歌を作る人間だ。

  恐喝犯じゃない。

それを言うために

何日も監禁したのか?

どういうおせっかいだよ!?



北:北野波平はきさまのような

  負け犬を見捨てない。 

  なぜなら

  きさまのような人間のために

  演歌はある

はあ?

北:きさまを見捨てたら

  この俺が演歌を歌う資格がない

  って思ったんだ。

  オキナワ、俺はなあ、

  うれしいんだよ。

  お前が歌を、なんちゅーか



気持ちを

上手く言葉で表現できない北野は

座敷牢を壊す力を振り絞って



♪人生はワンツーパンチ、

汗かきべそかき歩こうよ♪



時に音が外れながらも

歌うような、話しかけるような

北野の熱い歌声は胸に沁みる、

心に響いてくる



とっつぁん、

俺、おっさんみたいなやつ、

もう一人、知ってるよ。

おもしれえやつなんだよ、そいつも

北:そいつの話も聞きてえがな。

  まずは歌を書け。



オキナワも感情を爆発させ

生き返ったようになった



北:オキナワ、かっこいいぞ。

  まるで俺ようだぁ






このシーンのセットは

座敷牢のみ。

北野とオキナワの

表情と言葉だけで芝居が続く。


北野を演じる西岡さんの、

なんと表現したらいいのか、

とにかく演技のすごさよ!



カゴツルベの時、

ヤスはことあるごとに

「西岡さんに教わった」を連発。

舞台初心者のヤスに

きちんと丁寧に

演技というものを教えてくれた方。

ヤスが心から感謝して

慕っていた。

その方とまた共演できたのは

見ていて感慨深かったし、

西岡さんが現役の演技巧者なのも

またいい勉強になっただろうなと思うと

このシーンの見事さは

忘れられない。




そして相対する福士さん。

これまた見事で。

声の抑揚やセリフの間が素晴らしかった。



もしこれがヤスだったら、

西岡さんの芝居に

”立ち向かっていく”のは想像できるが

”相対する芝居”になったか…

見てみたかった気もする